【公演レポート】ローズちびっこげきじょうVol.3 劇団風の子九州「ハイハイ、ごろ~ん。」
2024年08月02日
豊中市立文化芸術センターで取り組んできた多彩な主催公演をレポートし、WEB上で共有するコーナー。今回は、7月に開催した ローズちびっこげきじょうVol.3 劇団風の子九州「ハイハイ、ごろ~ん。」を、本事業の担当スタッフである田中悠が振り返ります。
―2024.7.6(土) 11:15・14:00開演 豊中市立文化芸術センター 多目的室
このレポートを読んでくださっている方でローズ文化ホールをご存知の方はどれくらいいらっしゃいますか。
また実際にご来館いただいた方はどれくらいいらっしゃいますでしょうか。
市民の方は「庄内体育館」と言えば「あぁ!」と思ってくださる方もいるかもしれません。
ローズ文化ホールは庄内体育館とともに、豊中市南部の文化とスポーツの拠点として1989年7月にオープンし、豊中市の花であるローズから名付けられ、豊中市立文化芸術センターほか4つの施設をあわせた総称である「豊中市市民ホール等」の中では最南に位置しています。周辺には大阪音楽大学や豊南市場等があり、下町と文化芸術が混じり合った地域です。
施設は主にピアノやバレエの発表会や演奏会、講演会等での利用が多く、劇場型とフラットフロア(平土間)の幅広い用途で利用できる多目的ホール、いわゆる「貸しホール」として35年間親しまれてきました。
そんな「貸館」を主にしてきたローズ文化ホールで、2022年に主催事業として開始したのが乳幼児とその保護者をターゲットとした「ローズちびっこげきじょう」シリーズです。
劇場・ホールという日常生活ではない空間で、子どももそして大人もいろいろな感情に出会い、沢山の体験をしてもらいたいという思いから、シリーズの副題を「こどももおとなもわくわくたいけん!」とスタッフで考えて名付け、ローズ文化ホールが取り組む初めての主催企画がスタートしていきました。
2022年にシリーズ第1回、翌年に第2回と続け、迎えた3年目の今年、会場であるローズ文化ホールは大規模改修工事のため休館。
いくつかの会場が候補にあがりましたが、比較的アクセスのよい豊中中部に位置し、市内の文化芸術の拠点であり、事業運営経験が豊富なスタッフの協力が得られることから、豊中市立文化芸術センターの多目的室での実施としました。
演目は、シリーズ初年度は人形劇、2年目は和楽器の生演奏にのせた物語を上演し、3年目の今年はより本格的なベイビーシアターを上演したいと考えていましたが、ベイビーシアターを上演している団体は全国でも少なく、関西では数えるほどしかありません。そこでコロナ禍が収束したこともあり以前からリサーチしていた地方の団体を候補にあげました。
そのうちの一つが劇団風の子九州です。
劇団風の子九州は、1950年に子どもたちのための専門劇団として東京・世田谷で創立された劇団風の子を母体とし、1985年に地域に根ざした創造・普及活動をする「地方劇団風の子」として劇団風の子から独立して誕生した団体です。″子どものいるとこ どこへでも″ を合言葉に、全国各地や海外までも巡演し、子どもたちへむけた演劇の創造と普及に努め、現在では九州圏内及び日本全国、海外へも活動の範囲を広げ、保育園・幼稚園・小学校などを中心に年間600ステージ程の公演を行い、従来の演劇様式にとらわれず「遊びから創造へ」をキーワードとした数々の作品を創り続けている、いわゆる子ども向け演劇のプロ集団です。
筆者と劇団風の子九州との出会いは、以前勤務していたホールでの3年目の頃、鑑賞事業として当劇団の演目が上演された時でした。当日は場内係で客席最後方で舞台を拝見しましたが、子どもも大人も一緒になって物語の主人公たちと冒険し、時に拍手や歓声があがり会場が一体となっていく感動はいまでも鮮明に記憶に残っています。
そんな劇団風の子九州がベイビーシアター作品を上演していると知り、色々なご縁が繋がり今回の「ハイハイ、ごろ~ん。」の上演に繋がりました。
そして迎えた公演当日の7月6日(土)、梅雨らしからぬ日差しが照り付ける日に、ベビーカーや抱っこ紐でパパとママと一緒にやってきた0歳8ヶ月から14ヶ月の赤ちゃんたち、絨毯の上に半円形に並べられた座布団、真ん中には八百屋舞台(傾斜のある舞台)の上に不思議な実が成る木。
初めて入る空間に戸惑う子、興味深々な子、お母さんから離れない子など、さまざまな赤ちゃんたちに、ここが安心で安全な空間であることを肌で感じてもらうために自然に優しく役者たちが話しかけます。
ほどなくして遊びの延長のように役者同士のやっほ~という掛け声から「ハイハイ、ごろ~ん。」の世界が始まりました。
役者たちの身体あそびから始まり、いろんな楽器や音の鳴る玉、ぬいぐるみや客席を覆う大きな布が登場し、それらが海の中や宇宙を連想するような空間演出となり、終始流れる楽器の音と相まってとても心地良く感じられます。
赤ちゃんたちはパパママから離れて八百屋舞台に上ってみたり、音の鳴る方へハイハイしたり、出てくる物や音に全身で反応し自由に感じるままに動き回ります。
その様子を見守るパパやママは、初めは心配そうにわが子の様子を見ていましたが、パフォーマンスが進むにつれ、興味を持って自主的に自由に動き回るわが子をほほえましく見ていました。
終盤には役者が奏でる声と楽器の柔らかなハーモニーの中、さまざまな形をした音の鳴るおもちゃが四方から出てきて大人も赤ちゃんも一緒になってリズムを会場全体で奏で、優しくあたたかい雰囲気の中大団円となりました。
パフォーマンス終了後には、フリータイムの時間が設けられ、劇中にでてきたぬいぐるみやおもちゃで遊んだり、思い出を写真に収めたり、参加者同士の交流があったりと思い思いの時間を過ごしていました。
心なしか会場に入ってきたときよりもパパやママの表情が柔らかくなっているように感じられたのが、とても印象的でした。
明確なストーリーもなければ、セリフもない。それでも40分のパフォーマンスの中で赤ちゃんが飽きることなく、そこで起こる物事に全身で感じて反応し役者たちもそれに合わせるように表現していき、役者と赤ちゃんが生み出す表現を目の当たりにしながら、会場一体となって空間を共有する、まさに生の演劇の醍醐味が凝縮された空間でした。
0歳の赤ちゃんたちはすくすくと育っていく中でこの日の演劇体験を覚えていないかもしれませんが、おやこで一緒の体験をしたこの時間がこの先の成長の中でかけがえのないものになってくれていたら何よりです。
終演後のアンケートには「赤ちゃんと一緒に楽しめるパフォーマンスが少ないのでこういった催しを継続してほしい」「赤ちゃんが楽しめるイベントに家族で参加できて楽しかった」というお声をいただきました。
今後も「ローズちびっこげきじょう」が子どもたちとパパママにとって、アートに触れ、地域の人と出会い、ほっと息をつける場所、さらに地域の大人たちが、共に楽しみ見守る時間と空間となることを目指していきます。
田中 悠
豊中市立ローズ文化ホール職員。大学で舞台芸術を専攻し、卒業後、兵庫県の県立劇場にて5年間の勤務を経て、2020年よりローズ文化ホールに勤務。主に貸館担当として従事し、2022年からは事業企画を担っている。
ホール業務の傍ら、ミュージカル劇団に所属し、自らも表現活動を行っている。