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レガシーのTRANCE – KONTAKTE - 中川賢一(ピアノ)公演直前インタビュー

2021年3月5日


2021年3月6日に、TRANCE MUSIC FESTIVAL 2021 -SENSATIONS- レガシーのTRANCE – KONTAKTE –にご出演される、ピアノ:中川賢一さんに公演直前インタビューを行いました。


スタッフ:今回2曲のみのプログラムという事で、他の場所で公演をされたことはありますか?

中川:まず「KONTAKTE」は20年前にアンサンブルノマドという東京の団体で演奏しました。その時は、本当に試行錯誤でそれはそれで楽しかったのですが、今回は練習時間もかなり取れました。実はコロナの影響もあって4月から練習してたんですよ。打ち合わせもしっかりオンラインでやって、冬に宮本さんと2日間ぐらい合宿をして1月にも、関西で合宿をして、先週1週間前にも合宿をしました。一昨日からは、彼女の住んでいる近くでホールを取って、しっかりリハーサルの練習。そこまでしないと、良い曲なんですけどあまりにも複雑な曲なんです。

「フォー・オルガンズ(four organs)」も同じく、20年前に所属していたアンサンブルノマドで、その時は4人のオルガン奏者と、1人のマラカスで生で演奏したんです。ダンサーと一緒にダンスとも合わせて演奏した事があり、全部で4・5回ぐらい生で演奏したことがあるんです。でも今回は、なんと全部オルガンパートは1人。つまり4パートあって2番・3番・4番を有馬さんのディレクションで録音して、1番パートは僕が生で弾くと。つまり全部ひとりで弾くんです。マラカスパートは宮本さんが振ったのを有馬さんが録音・編集。先程それを、豊中文芸で撮りました。


スタッフ:「フォー・オルガンズ」って4人なのに、どうやって一人でやるんだろうと気になっていたので、楽しみになってきました。

中川:はい。全部1人でやります。パイプオルガンから電子オルガンまで色んな音色があるんだけど、どの音色にするかをこの場で先程決めたんです。このホールに合うようにしっかり音色を決めました。


スタッフ:KONTAKTEという言葉は、「接触」という意味もあるとおもうんですが、中川さんは「接触」という意味合いはどのように意識されていますか?

中川:有馬さんが作った電子音と一緒にやっていて、やればやるほど生き物に聞こえてくるんですよ。それがすごく面白くて。練習することによって違ってくる面白さで、電子音との「接触」っていうか。電子音に関わらずそれが生き物におもえてくる。あとは、生き物同士つまりはピアノと打楽器という現世界の誰もが理解ができる「接触」。非現実的なバーチャルの部分で、電子音なのに生き物と思ってしまう「接触」。2種類をまたにかけてるというね。すごい面白いんです。

あとはスピーカーが4つあるんですね。ここから音をだして段々こっちが弱くなってこっち側が大きくなると「ひゅう~~~ん」ってしたりするんですよね。それがしょっちゅう起こるんですよ。空中で音が飛んでる感じになるんで、空間の移動というか。つまり2つのスピーカーがどう接触していくか「コンタクト」をとるかっていうかね。スピーカー同士のコンタクトっていうのもあるんですね。実は今言ったもう一つの接触は、電子音を出すだけじゃなくて、バランスをとらない。それをするのは有馬さんなんですね。有馬さんという技師だけどプレイヤーで「見えないプレイヤー」と「見えてるプレイヤー」の接触。色んな「コンタクト」があって 

①スピーカー同士のコンタクト ②見えない/見えているプレイヤーのコンタクト ③見えるプレイヤー同士のコンタクト ④電子音と人間の出す音のコンタクト

「シュトックハウゼンのすべて」という本を書いている松平敬さんがおっしゃるには、うまく演奏されたときは実際出しているピアノの音や打楽器の音と電子音が、どっちがどっちだか分からなくなるらしい。そこまでできたらいいなという感じです。


スタッフ:実際にホールの中で、どのような音が繰り出されるかが私もとても気になります。

中川:61年前の曲。だけど、今聞いても宇宙音楽です。


スタッフ:電子音と、生の音は全く違うと思いますが、それをうまく合わせるためにどういったことに注意してますか?

中川:まずは「聴く」ってことですね。しっかり聞くと体の中に入って、それとどう合わせるかっていうのが出てくるんですね。元々オーケストラの金管楽器とピアノっていうのは全然音色が違いますし、ヴァイオリンとも違うんだけど、聞いてるうちにどう合わせるかっていうのは、出来ちゃうんですね。それと同じことで「聴きこむ」ってことが重要で、それに尽きるとも言えるかな。

あとは、曲を全体的にしっかりと練習すると、次にくるだろうと思ってその先の音を出すとか、「一心同体」になるおもしろさがありますね。


スタッフ:生の楽器と電子音楽それぞれの良さは知っていますが、組み合わさる事で新たな音楽の可能性があり、楽しみでもあります。

中川:実際、電子音と生の楽器っていうのは実は我々慣れているはずなんですよ。カラオケでは、シンセで作った音と生の声。それが普通に混ざって聞こえてたりとか。今テレビドラマ曲はかなりシンセで作られてますね。そこにヴァイオリン一本のせるとか、歌がのってて、そういうのを自然に聞いてて。なので実は電子音っていうのは、今の生音にかなり近くて、逆にそこの交わりが今普通になっちゃってるんじゃないかな。

あとはポップスとかジャズは大体電子ピアノを使うことが多いですよね。あれは自然に聞こえてたりしますよね。あとはスピーカーを通したときに、すでに実は電子音なんですね。ヴァイオリンでもコントラバスでもスピーカーを通すと音色が硬くなったり鋭くなったり、逆に柔らかくもできたりとか。実は、電気信号が全て振動が伝わってスピーカーから出ているだけで、我々が聴いているかなりの音楽は電子音だったりするのかなと僕は考えてます。

まあカラオケが一番いい例じゃないですかね。あれ普通に混じりますよね。歌っても楽しいし聞いても楽しいし。あとはポップスでもシンセで作った音でカラオケとか、例えばポップスの歌詞を歌ったりしても。今ドラムの音もかなりの電子音でしっかりとできるので、有名な歌手とか。AKBとかはそれ専用に作る作曲家がいて、生音入ってないほうが多いんじゃないかな。Perfumeはテクノですしね。もっと沢山いると思いますが。

でも単純に不思議な面白い音に身をゆだねるだけで楽しいと思うので、空間の中で音が飛ぶのも面白いし、見ても音の空間を聞くのでもとにかく楽しいし。見て聞いていただければと思います。


スタッフ:新型コロナウイルスの影響で、ネット上で音楽を聴くことが多くなりましたが、ホールで聴くことに意味のある公演ですよね。

中川:今回はもう間違いなくホールじゃないと無理です!音が飛ぶとか、視覚もシュトックハウゼンには入っているんです。照明の指示もあって。それを忠実にやろうとすると本当に大変。これ全然お世辞じゃなくて豊中のスタッフが素晴らしくて。なんでもやって頂いてちょっとそんな所ないですよ。こちらから持ち込むんだったら簡単なんですけど、中の方に指示をしてここまでやって頂くなんて感動です。

「4台のオルガン」も、1つのオルガンパートに対して1つのスピーカーを使うから、4つのオルガンを聞いてる感覚になるんじゃないかと思いますけどね。

有馬:電子音楽って、ファイルだからヘッドホンとか何で聞いても一緒と思うかもしれないけど、電子音楽こそ大音量で聴く、家では絶対に楽しめない。こういうコンサートとかライブハウスじゃないとわからない。家で聴いてて全然聞こえないねっていうパートも、ここだとしっかり聞こえるとか。4チャンネルですからね。ここに来ないとわからない。

中川さん:有馬さんの存在は大きいです。今回の音空間は全部有馬さんが作ってるといっても過言ではない。


スタッフ:2/20に初めて有馬さんらの「時間のTRANCE – NINETY MINUTES –」公演をみたのですが、生と電子の空間はすごかったです・・・!

有馬:あの時も4チャンネルでやってたし、毎回演奏も違うからこちらの音量とかも当然それに合わせて変わってくるし。シュトックハウゼンなんて毎回演奏が違うから。面白いですね。

中川:これはね、全国でもこんなプログラムない。無理ですね。

無理っていうのは、あらゆる条件を整えないとなんですね。まずはスピーカー。この曲をちゃんと理解している音響技師という有馬さんと相談してシュトックハウゼンはこの音だろうと色んなやり方を。それがないと全然ダメなものとなってしまうんです。音源は変わんないんですけど、例えばF1で僕が乗ってもしょぼい運転しかできないですよね。F1に相当するドライバーが必要ですし。


スタッフ:やっぱりこのメンバーだから出来る事なんですね。

中川:それは間違いないですね。宮本さんも今回本当によく勉強なさって。今回かなり時間を割かないといけないんですけど、12月合宿、1月合宿、先週合宿で、今度は2日前から1週間合宿。そこまで時間割く方も中々いない。昨日・一昨日に関しては、ホールを借りて練習しましたからね。それを手伝う人がいないと無理だし。

あとは中々難しかったんですけど、指定した照明。ドラに赤っぽい照明をあてると、後ろに黒い太陽ができて、その周りが炎で燃えているように見えますよね。説明では「コロナが欲しい」って書いているんですよ。2つのゴング=黒い太陽と炎があるべき。今日ばっちりやってもらいました。

これは前やった時はできなかったんです。東京の普通のホールだったので。つまり色も指定されているんですね。もちろんそこまで過激に全部やる必要はないけど、ここら辺の色というのははっきりあって。どれが一番いいかを試してるんです。


スタッフ:(写真を見て)楽器でこんな風にできるんですね。

中川:出来ました。本当にすごいスタッフだと思います。「何でも言ってください。」と言って下さったので、「楽譜だとこうです。」と言ったらそれを実現してくれて。


スタッフ:音だけでなく視覚的にも楽しめますね。

中川:で、それは我々の演出ではなくて、作曲家がそれを書いているので。こう言うと逃げ口上かもしれないですけど楽譜に忠実に演奏しようと思ったらこうなるということですね。なんとなく演奏をしようと思ったらできるけど、忠実に再現っていったらそう簡単に出来る曲じゃないです。再現したものに我々が命を吹き込むのが仕事なんですけど、まず再現するところまでもっていかないと、そのあと命を吹き込めないので。

丁度対照的なライヒは、同じ音を繰り返し演奏するミニマルミュージック。今回の「フォー・オルガンズ」はミニマルというよりは、ある1つの音が拡大されて拡大されて時間が無くなってくるというような感覚なんですけど、ある意味素材が限られてる。シュトックハウゼンは色んな素材を使って、下手したら拍子もないような。ライヒのほうは拍子が「チッチッチッチ」永遠と同じパルスなんですね。パルスがないっていうのは変なんですけど、一般的に聞くとパルスがない音楽だとシュトックハウゼンは聞こえると思うんです。


スタッフ:最後に公演の意気込みを

中川:二度と見れないかもしれないですね。見れないっていうのは生で来ないとなので。

音が空中を舞い、シュトックハウゼンの見えた音と視覚的な風景が体現されるコンサートになるとおもうので、心を空っぽにして楽しみにして来て欲しいです。絶対楽しいと思います。

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